燕岳から槍ヶ岳

【年月日】

1990年7月26〜28日
【同行者】 単独
【タイム】

7/26 中房温泉(6:00)−合戦小屋(8:20)−燕山荘(9:17)
   −燕岳(9:37)−大天荘(12:40)
7/27 大天荘(5:00)−大天井ヒュッテ(5:30)−水俣乗越(8:30)
   −大槍ヒュッテ(10:00)−槍ヶ岳山荘(11:00)−槍ヶ岳往復
   −槍ヶ岳山荘(12:00)−ババ平(14:30)
7/28 ババ平(4:20)−横尾(6:20)−徳本峠分岐(8:30)−バスターミナル(10:00)

【地形図】 上高地、槍ヶ岳、穂高岳

1日目 (中房温泉から大天井岳)

 0時半のアルプス号は、思ったほど混んではいなかったが、座席はなく、デッキでマットを敷いて横になっていった。
 松本で降りる人が多く、ようやく座れたが、あたりは明るくなっていた。

 穂高駅を下りるとバスがすでに待っていて、乗るとすぐに発車した。
 中房温泉バス停周辺には、おおぜいのハイカーがたむろしていた。

縦走路から振り返る燕岳

 さっそく登りはじめるが、かなりの急登に感じる。
 第一ベンチでザックをおろすが、この尾根ではどのベンチも休んでいる人でいっぱいだ。
 ここでペットボトルを満タンにした。

 合戦小屋では、ビール350mlカン500円、スイカ1かけ1000円とある。
 それを横目で見ながらパンをかじる。

 合戦ノ頭からは、傾斜のゆるい稜線歩きとなり、ゴゼンタチバナ、エゾシオガマ、ウサギギク、モミジカラマツ、ムカゴトラノオ、ツマトリソウ、ハクサンフウロなどが道端のそこここに見られるようになる。
 ミヤマキンポウゲの群落やコバイケイソウがあらわれると、燕山荘が見えてくる。

 ミヤマクワガタ、クルマユリ、マルバダケブキなどがまじるお花畑の広がる燕山荘に着くと小雨が降ってきたので、ザックを小屋の玄関先におき、雨具だけ着て燕岳に向かう。

 尾根の右側はいかにも雪解けあとらしい青々としたお花畑が広がっていて、ミヤマキンポウゲ、ハクサンイチゲ、テガタチドリ、ハクサンチドリ、シュロソウ、シナノキンバイ、チングルマ、エゾシオガマなどが咲き乱れていた。

 尾根の上にはハイマツやシャクナゲに混じってキバナコマノツメ、コケモモ、オンタデなどが咲き、左側はカコウ岩の白ザレで、チシマギキョウ、ミヤマキンバイ、コマクサなどが辛うじて咲いていた。

 20分たらずで燕岳。
 雨はやんだが、ガスのため展望はなし。

 燕山荘に戻ってみると、林間学校の終了式をやっていて、小屋の主人がアルプホルンを吹いてみせていた。
 教員の号令で「ゴミ拾い」と称して生徒が無意味にうろうろする中、大天井岳へ向かう。

 ここからはタカネツメクサやコマクサのみごとな群落が点々とする中、尾根の西側の岩稜帯とハイマツ帯を行く。尾根の東側は湿性のお花畑。
 イワカガミ、アオノツガザクラ、ネバリノギラン、ヨツバシオガマなども見られだす。

 ガスのなかに槍ヶ岳がぼんやりと見えている。
 大下りを下るのはいいが、登りに転じるところはなかなかつらいものがあった。

 鞍部のあたりはハイマツではなく潅木帯。
 ふたたび尾根に出る手前で一服し、一登りするとまたハイマツ、コマクサ帯となる。

縦走路から振り返る大天井岳
 目の前の大天井岳がとても大きい。

 ちょっとした鎖場を下り、小林喜作レリーフからやや登ると大天荘と大天井ヒュッテの分岐点。
 ここは大天荘に向かってトラバース気味に登る道をとる。
 かなり疲れも出てきていたので、この登りは急登に思えた。

 途中道端に二羽のひなを連れたライチョウと会った。
 大天荘に着いたのは12時40分。ここでこの日の行動を打ち切った。

 小雨が降ってきたので、いそいでテントを張り、中にもぐりこむと、眠くなって寝てしまった。
 風も出てき、テントが揺れるほどになったが、大したこともなく、やがておさまった。
 2時過ぎ外を見ると、テントはずいぶん増えており、学生や高校生の声がしていた。

 大天井岳へ行ってみると、ずいぶん晴れてきてはいたが、燕や槍、穂高などの上部にはガスがかかっていた。
 しかし常念岳、蝶ヶ岳などはよく見え、常念の立派さは印象的だった。
 水を小屋で買ってふたたびテントに入った。

槍ヶ岳の夕照
槍ヶ岳の日没

 あたりが暗くなってきた7時過ぎ、テントを出てみると、ガスは下の方に降りていて、日がほとんど沈んだ西の雲の上に槍、穂高が浮かんでいた。
 はじめてまじかにみる槍ヶ岳は、迫力があり、とても登れそうには思えなかった。

2日目 (大天井岳からババ平)

 翌朝、隣にテントを張った高校生のパーティが真夜中から食事の支度をはじめ、騒がしくなったので、目がさめた。
 3時に外をのぞいてみると快晴で、満天の星空に天の川が流れていた。

 水をケチったためおいしくない朝食のあと、テントを撤収し、ザックを小屋の前においてご来光を拝みに出かける。
 4時47分、いつもながら感動的な夜明けであった。

大天井岳からの黎明

 槍ヶ岳に向かって行動を開始する。
 歩きはじめなので、慎重に行く。

 大天井ヒュッテを過ぎてしばらくは、稜線からはずれて東側斜面のお花畑の中を行く。
 尾根が左に曲がり、北鎌尾根が見えるあたりにも、昨日のよりずっと小さなひなを5羽も連れ歩いているライチョウがいた。
 今日のはかなり警戒していて、けがをしたようなふりをしてしきりに気をひいてみせた。

 西岳ヒュッテからは、水俣乗越に向かっての急降下となる。
 ここまで暑い陽を浴びて歩いてきたが、ようやく日陰に入ることができた。
 とはいえ、鎖場やハシゴが連続しているので、気が抜けない。

 水俣乗越への下りは単純でなく、鞍部の中にいくつかの小ピークがあるので、心理的に疲れる。
 水俣乗越に着くと、北に高瀬ダムが見えた。

ライチョウ
縦走路から鷲羽岳を望む

 ここからの登りは長いが、今日最後の登りだと思って頑張る。
 登り下りはさほどなく、一方的な登りなのでまだましと思う。

 しばらく行ったところに左に鎖をつけた大岩があり、足元がザレたいやなところ。
 足元が定まらないので鎖にすがって登っていくが、息が切れる。

 その次は長いハシゴが2ヶ所。
 ふたたび尾根の上に出ると槍の穂先が目の前にせり上がっていて、急な登りにも慣れてくる。

 大槍ヒュッテまで来ると腹が減ったので、ここで食事。
 水を1リットル買って、ベンチで食べた。
 ここから空身で槍を往復する人もけっこういた。

 槍の穂先には次第にガスがかかってき、雲ひとつない好展望というわけにはいかなくなってきたが、雷雨になるほどではなかった。
 大槍ヒュッテから最後の登りにかかる。
 キリンソウ、ミヤマオダマキ、イワオウギ、シコタンソウ、ツガザクラ、イワヒゲなど、それまでになかった花が咲いており、感じが違っていた。
 ミヤマダイコンソウも多くなってきた。

縦走路から槍ヶ岳

 おおぜいの人でにぎわう槍岳山荘で一息入れて、山頂に向かう。
 中腹から上では、登りと下りで別ルートになっている。

 なかなかの高度感だが、困難なところではない。
 狭い頂上は、ちょっとしたラッシュだった。

 山荘に戻ったのはちょうど12時と、テントを張るにはやや早い時刻だったので、下ることにした。

 殺生ヒュッテまで急下降し、槍沢にそってお花畑の間を下っていく。
 かなりきびしい下りだが、登ってくる人にくらべれば天国だといえる。

 登る人はみなあとどれくらいかと尋ねてくる。
 槍沢コースは長くてつらい登りなんだろう。

 ババ平のテント場に着いたのは2時半を回っていたため、かろうじてテントスペースを見つけることができた。
 あとから来たパーティは槍沢の河原に幕営していた。

 テント場代は翌朝払うつもりでテントを張り、食事をしていると、槍沢ロッジの人が廻ってきたので、その時に支払う。

 隣に幕営していた埼玉県立某高校がうるさかったので、耳せんをしてじっとしていると、いつのまにか眠ってしまった。 

3日目 (ババ平から上高地)

縦走路から槍ヶ岳
上高地から前穂高

 3日目も、真夜中にまわりがうるさくなってきたので、起きだす。
 外を見ると、幸運なことに、今日もまた天の川と満天の星空。

 食事をしてからすぐに撤収にかかり、星明かりのなか出発。
 岩場がなく、ゆるい下りなのでどんどん下れる。

 横尾から先はなかば観光地。
 おおぜいの人が歩いていた。
 右手に見える前穂がすばらしい。
 徳沢まで来ると、自動車も走ってくる。
 暑い陽射しが照りつけ、観光客がうろうろする中、やや疲れてきた。

 橋を渡って明神の方に行ってみる。
 明神池見物料200円とあるので、金をはらって入ってみたが、カモが泳ぐ普通の池だった。

 河童橋から、上高地温泉ホテルまで足を伸ばしたが、「外来者歓迎」の看板に反して、入浴は午後からだといわれた。

 がっかりして河童橋に戻り、バスターミナルに向かう。
 この一角にあったコインシャワーで3日間の汗を流し、人心地ついた。