白山で花見遊山

【年月日】

1989年8月10〜11日
【同行者】 単独
【タイム】

8/11 別当出合(5:00)−甚ノ助ヒュッテ(6:42)−白山室堂(8:15)
   −大汝峰(10:45)−白山室堂(11:19)
8/12 白山室堂(4:18)−御前峰(4:48)−白山室堂(7:00-7:50)
   −甚ノ助ヒュッテ(9:22)−別当出合(10:20)

【地形図】 白山

1日目 (別当出合から白山室堂)

 午後に石川県に着き、白峰緑の村というキャンプ場でテントを張った。
 ここは高校生が一晩中騒いでおり、とても眠れたものではなかった。

 明け方に、騒々しいキャンプ場を出発、市ノ瀬の永井旅館前で登山者カードに記入し、さらに自動車を走らせる。
 永井旅館前でもテントを張っていた人がいたので、ここで幕営すればよかった。

 別当出合の登山口を5時に歩きだす。
 茶屋前の分岐は砂防新道へ。

 吊橋を渡ると、クサボタンやソバナの目立つ道。
 周囲は曇っており、展望は全くない。

 クサボタンの多い取りつき付近を過ぎ、ホタルブクロ、ウメバチソウ、キツリフネ、ミヤマクルマバナ、丈の高いコゴメグサなどを見ながら行くと、雨がぽつぽつ降ってきた。
 しばらくは、木陰を選んで歩いていたが、やがて本格的な降りとなったので、雨具を着込む。

 このあたりでは、センジュガンピの白い花がつぎつぎにあらわれ、目を慰めてくれた。
 雨の中、登山道に水が流れてコンディションは悪くなったが、ここまで来て少々の雨で退却はできないので、どんどん登っていく。

 避難小屋とはいえ、立派な作りの清潔な甚ノ助ヒュッテに着いたのは、6時42分。
 ヒュッテには、下山途中の大学生がおおぜい入っており、人びとの身体から吹き出す湯気がもうもうとする中、重そうなキスリングが並べてあった。

 雨が小止みになってきたので、再び歩き出す。
 あたりのガスもしだいに晴れてき、別山へと続く尾根が見えてきた。

 南竜新道との分岐点を過ぎ、ややガレた感じの小沢を渡って山腹を巻いていくと、ちょっとしたお花畑。
 ニッコウキスゲ、ダイモンジソウ、オタカラコウ、ヨツバシオガマ、イブキトラノオ、タカネナデシコ、クルマユリ、ハクサンフウロなどが咲き誇っていた。
 沢沿いには、ハクサンコザクラ、シナノキンバイ、ミソガワソウ、モミジカラマツなども咲いていた。  ごく薄いピンクイブキトラノオが無数に斜面を埋めているようすは、幻想的でさえあった。

 少し急登すると黒ボコ岩。
 ここから弥陀ガ原の草原地帯となるが、花はほとんど咲いていなかった。

 この原を横切り、ひと登りすると、白山室堂。
 すぐに宿泊の申込をしようと思ったが、受付は11時からだというので、ザックを置き、身体を乾かした。

 10時前、ガスが少し晴れてきたので、カメラだけを持って散歩に出た。
 御前峰を巻いて翠ヶ池方面に向かう道に入ってみると、ここはすばらしいお花畑だった。

 登りだしは、クロクモソウやヨツバシオガマが点在している程度であったが、すぐに、ハクサンコザクラの群落があらわれた。
 その一帯はクロユリもたくさん生えていて花をつけていた。

クロユリ
アオノツガザクラ

 さらに行くと、ミヤマキンバイやチングルマ、アオノツガザクラ、コイワカガミ、ミヤマダイコンソウなどの花の大きな群がつぎつぎにあらわれた。

 なかでも見事だったのは、チングルマとアオノツガザクラ、そしてミヤマキンバイである。
 チングルマは、一つの花自体が華やかなので、大株が一斉に花開くととても見事だ。

 ミヤマキンバイはだいたいどこの山にも咲いているような気がするが、このような湿性草原に大群落をつくっているのを見たのは初めてだ。
 この花もこのような斜面いっぱいの群落となると、思わず目を見張ってしまう。

 アオノツガザクラの花は色も形も地味なのだが、一面に咲いていると、何とも言えず華やかになる。
 このようなお花畑のなかを通り、翠ヶ池への分岐に来る。

 天候は雲が巻いてはいるものの、晴れてきた。
 ここは大汝峰に向かう。

 このあたり、ほとんど人けがなく、とてもよい雲上散歩だ。
 山の肩に出ると、斜面のあちこちにイワキキョウの群落が、見る人もいないのに紫色の花をいっぱい開いている。

 この日はここまでにして、再びお花畑コースを戻って宿泊の申込。

 愛想の悪いおばさんがすわっていて、食事はどうするのかときく。
 このところまともなものを食べていなかったので、夜だけでも頼もうかと思い、夕食には何が出るのかと尋ねると、知らないといわれた。
 それじゃ食事はいらないというと、後から頼んでも食べられませんよと何度も念を押された。
 売店のアルバイトの女の子も、客にルートをきかれて、他の人に聞いてくださいと答えていた。

 この日の午後は、入道雲が下界からむくむくと湧きあがってきてはいろいろな形に成長していき、ちぎれて飛んでいくようすを見て時間をつぶした。

 日がしだいに翳ってくると、さすがに冷えてきた。
 夜は毛布とツェルトを広げてかけると、何とか快適に眠ることができた。

2日目 (白山室堂から別当出合)

御前峰から大汝峰
 明け方3時に起きて外に出てみると、快晴で星が降るような夜空だった。
 さっそく食事をすませ、ザックに全部を詰めこんで、御前峰に向かう。

 4時頃に神社で太鼓が鳴り、御来光なので起きてくださいという声を聞いたが、懐中電灯を持った大ぜいの人々が列を作って御前峰に登っており、下から見ると、登山道はまるでキツネの嫁入だ。
 登っていく途中でだんだん歩くのが遅い人が出てき、渋滞もおきた。

 御前峰の山頂は人であふれかえっていた。
 神官が高いところに登って山の由来を大声で説明している最中であったが、あまり興味を感じなかったので、北アルプスのよく見える東の方にいい岩を見つけてすわった。

 御嶽山と乗鞍岳のシルエットが雲海のなかに浮かんでいる。
 槍、穂高の稜線からあまり顕著でない北の峰峰がずいぶん長く連なっている。

白山から北アルプス

 左の方には剣岳が鋭角的な山容を見せ、その右の大きな山塊が立山だと知れる。
 その向うには後立山の連山が意外に高くなく連なっている。
 槍ヶ岳の少し左がしだいに赤く燃えあがってき、あかい光が雲に反射して何とも言えぬ美しさだった。

 ご来光を見てから、翠ヶ池方面に向かう。
 イワキキョウが時おり咲いているが、大汝峰にくらべればずいぶん少ない。

 翠ヶ池のほとりは、まだ残雪におおわれているが、雪は堅くしまっている。
 昨日通った分岐点から大汝峰に向かう。
 やっと喧騒から解放されて、ほどなく大汝峰。

 モルゲンロートの御前峰、剣ガ峰が美しい。
 北アルプスはもうただのシルエットになってしまったが、東側の雲海の彼方には日本海まで見渡せた。
 少し休んで大汝をあとにし、室堂に向かう。

 下山路は、エコーラインコースにした。
 黒ボコ岩の方にしばらく下って、弥陀ヶ原に降りたつ。
 ここから左に折れるのがエコーラインだ。

 しばらくはイワイチョウやコバイケイソウ、タテヤマリンドウなどのあまり派手でない花が咲く中、下りともいえぬ道を歩いて原を横切る。
 ニッコウキスゲやイワカガミがあらわれだした頃から下りらしくなってき、湿性の草原を経て南竜山荘が見えだすあたりから、クルマユリ、ニッコウキスゲ、シモツケソウ、ハクサンフウロ、カライトソウなどの咲き乱れる斜面となる。

カライトソウ
イワキキョウ

 カライトソウの赤が非常に濃く、とても印象的だった。
 このあたりは急坂であるが、花に見とれているうちに下りきってしまい、砂防新道に向かう分岐を見逃してしまった。

 南竜山荘は、前に沢が流れており、気持ちのよい場所にある。
 沢を渡ったところにはテント場もあり、今度来るとすればここをベースにしようと思った。

 来た道を戻り、山腹にそってほぼ平らな道を行くと、甚ノ助ヒュッテを過ぎる。
 意外に早く林道に出たのだが、すぐ下に見えている駐車場までは思いのほか長かった。