照葉樹の繁る、暖かい山に行ってみたいと思い、ひさびさに茨城の山に出かけた。
岩間駅から、看板にしたがって、愛宕神社に向かった。
おれの家あたりとはちがって、市街地にはもうまったく、雪が残っていない。
やはり、ずいぶん、暖かいんだな、と思った。
ホテルの先に、スギ林の中を登る山道があったので、それを右にはいると、しばらくで、トイレのある広い駐車場。
この時期なので、見るものには乏しいが、林床に、ヤブコウジの小さな赤い実がのぞいていて、とても可愛い。
しばらく車道を行くが、自動車の通行もほとんどないので、のんびりできて、気分がよかった。
天狗の森入口というところから、車道と平行する山道にはいる。
スダジイ・シラカシ・タブなどの大木が、何本かあって、目を引く。
このような自然林が残されているのは、山道の両側だけのようで、生態系としてはズタズタなんだろうけど、株立ちの太い幹から伸びる、曲がりくねった枝を見ていると、かつてこのあたりを広くおおっていただろう、暖地林の面影がしのばれた。
難台山手前で出会った アカガシの大木
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同じブナ科の樹木だが、照葉樹は、ブナやコナラなど落葉樹とちがって、枝ぶりが、とても奇怪だ。
トイレが屋外にあったじぶん、庭の大木が怖かった、という話を聞いたことがあるが、その木は、シイかカシの仲間だったのではないか、という気がした。
月明かりの中で、曲がりくねった枝を広げて覆い被さってくるシイ・カシは、子ども心には、さぞ怖かろうと、想像された。
長い石段のわきは、照葉樹とスギの混じった、いい感じのところ。
先日の雪で、押されたものか、シャガの葉が地面に寝ていた。
この参道で出会った人が互いに罵りあう悪態まつりがあるそうだが、なにも、傷つけあうことはないのに、と思う。
それとも、日々の暮らしによほどの、ストレスがあったものなのだろうか。
日の丸の掲げられた愛宕様は、なんだか威圧的な感じがしたので、裏手の飯縄様に拝礼。
数えきれないほどたくさんの神社が合祀されていて、ありがたみには、やや欠けた。
西に下った駐車場では、何かの建物の棟上げの真っ最中だった。
観光的な開発をやっているんだろうけれど、それより森の手入れをして、照葉樹林をきれいにした方がいいのに、と思った。
ハイキングコース入口というところから、ふたたび山道。
ここからは、北面には、数センチの雪が残っていた。
カシやサカキもあるが、コナラがメインになるので、ごく普通の、おれが見なれている雑木林に近い。
林縁のキブシのつぼみが、スタンバイ。
この前、雨引あたりでキブシを見てから、一年が経つんだな、と思った。
道はやがて、広い防火帯となった。
地鳴きをしていた小鳥が、突然、ツツピーツツ、とさえずった。
野鳥の地鳴きは、わりあい多かったが、さえずりが聞けたのは、ヤマガラのこの一回だけ。
春を待ちきれないと、言いたげだった。
ススキが原で、石に腰を下ろして小休止。
どういうわけか、ここはモグラの巣が多かった。
防火帯のわきには、桜の木があるが、ヤマザクラではなく、ソメイヨシノのようだ。
人工的な植栽は、景観としては、自然公園らしくないように思った。
下生えには、アオキがとても多い。
赤く色づき始めた実が、春の光に輝いて、とてもきれいだった。
アオキの実は、吾国山までの道沿い、至るところにあった。
団子石峠には、石のベンチがあったが、先客が憩っていたので、休まずに難台山への登りにかかった。
難台山は、植林も少なく、存在感のあるりっぱな山で、登りもわりあい急だった。
途中、獅子が鼻とか屏風岩など、西側が開ける展望台があり、筑波山がよく見えた。
でも、おれとしては、人工物のある筑波山より、手前にある、茫洋とした加波山の連なりの方が、好ましく思った。
雪が紫色に染まったところがあったので、なんだろうとよく見たら、サカキの実が落ちるか食べられるかして、散乱しているのだった。
こういうのも、とても、おもしろく感じた。
今度は山頂かと思うピークをいくつか越えて、ようやく難台山。
樹林に囲まれた、小広い日だまりだった。
枝越しに、加波山から雨引山への連なりが、とてもなつかしかった。
ヤマザクラの、なかなかりっぱな大木が、いくつかあって、花の時期には、にぎやかだろうと思われた。
雪をけ散らしながら、一気に下ると、車道の越える峠。
ろくに休まずに来たので、ややへばり気味だったが、観光客みたいな人もいたので、休まずに吾国山に向かった。
洗心館を通り抜け、吾国山までは、一投足。
山頂は、神社に占領されていて、あまり広くないが、南側の展望はとてもよく、難台山がりっぱだった。
風を避けて、少し下った日だまりで大休止。
遅いお昼は、先日と同じネギラーメン。
山眠る冬ではあるが、この季節の、日だまりの気持ちよさは、他の季節には味わえない。
これもまた、日本の山の、ありがたさではなかろうか。
日が少し傾き始めたので、下山にかかる。
北側はおおむね、感じのよい、アカマツ混じりの雑木林。
そういえば、この日は食べられるきのこが、見つからなかった。
それはちょっと、残念だった。
人里に出ると、広い畑や田んぼがあって、あちこちで犬が吠えていた。
畑には、ネギやそら豆、山東菜、エンドウ豆、ホウレンソウなどが植わっていたので、観察しながら歩いた。
雪はないが、南に山を背負っているので、寒そうな畑が多かった。
畑にいた人にあいさつしたら、どこから来たのかと問われ、埼玉からと言ったら、とても驚かれた。
うまいことに、駅に着いたとたん、電車が来た。