北八ヶ岳縦断
− 大河原峠から横岳 −

【年月日】

2010年7月24〜26日
【同行者】 全部で5人
【タイム】

7/24 竜源橋(11:00)−涸れ沢(12:21-12:35)−蓼科山分岐(11:40)
   −大河原峠(13:30)−双子山(13:53-14:00)−双子池(14:25 幕営)
7/25 双子池テント場(4:15)−双子池ヒュッテ(4:31)−大岳(5:52-6:00)−大岳分岐(6:10)
   −北横岳(6:55)−坪庭(7:40)−出逢いの辻(8:53)−大石峠(9:20)
   −麦草峠(9:33-10:40)−高見石(11:43-12:05)−中山展望台(12:54-13:05)
   −ニュウ分岐(13:20)−中山峠(13:30)−黒百合平(13:35) 
7/26 黒百合平(4:39)−東天狗(5:57-6:05)−西天狗(6:24-6:35)−根石小屋(7:25-7:35)
   −夏沢峠(8:10-8:20)−硫黄岳(9:13-9:30)−横岳三角点(10:18-10:25)−三叉峰(10:37)
   −地蔵尾根分岐(11:10-11:30)−行者小屋(11:57)−赤岳鉱泉(12:20-13:35)
   −美濃戸口(15:25)

【地形図】 八ヶ岳東部 八ヶ岳西部、蓼科山、蓼科

1日目

夏雲湧く

双子池の夕暮れ(大きな写真)

 東白樺湖行きのバスは、あちこち寄り道しながら、ビーナスラインを走っていく。
 最初は満員だったが、ロープウェー乗り場を過ぎると、ずいぶん空いた。

 竜源橋でバスを降り、登山道に入る。
 地形図ではずっと沢沿いに行くのに、道はしだいに沢から離れ、斜面をジグザグに登っていく。
 21年前にここを歩いた時の記憶はほとんど消失していたので、どうもミスったかなと思わないでもなかったが、蓼科山に直登する道なら、もっと急傾斜になるはずだから、多分大丈夫だろうと思って進んだら、しばらく斜面を登った後、枯れた沢沿いの道になったので、安心した。

 シラビソやコメツガの樹林帯で、展望は皆無。
 花もないので、見るものに乏しい。
 しかし、苔むした針葉樹林帯は、なかなか風情があるので、どちらかというと好みの道だ。

 途中、沢に水流の出ているところが一ヶ所あった。
 常時、水が出ているならよい水場だが、渇水期には枯れるかもしれない。
 1時間少々歩いて、亀甲池の分岐手前の涸れ沢で小休止。
 ここで見たシナノオトギリが、歩き始めて初めて見た、高山植物らしい花だった。

 その先しばらくで天祥寺原。
 樹林が切れ、広いササ原になって、巨大な蓼科山や、針葉樹林に覆われた大岳がよく見える。
 大河原峠へは、ササ原をゆるく登っていく。

 大河原峠は車道が通じており、観光地同様の場所だから、自動販売機に用でもなければ、休む価値がない。
 大河原ヒュッテの前を通って、双子山にとりつく。

 双子山の登りは、時おり樹林が切れて周囲を見渡すことができるが、南八ヶ岳方面は見えない。
 この道は、21年前にはもっと花が咲いていた記憶があるのだが、シナノオトギリ・ハクサンフウロ・マルバダケブキなどが咲いているにすぎなかった。
 どうも鹿の食害が原因ではないかと想像された。

 双子山で少し休むとあとは、双子池のテント場まで下るだけだった。
 双子池ヒュッテは、以前来た時と同様、静かな佇まいだった。
 受付をしたら、小屋のおばさんが、「今日はテントのお客さんばっかりだね」と少し悲しそうに言った。

 ここは、北の雌池にテント場があり、南の雄池は水場になっている。
 小屋のおじさんは、「雄池にはここ50年、汚水が入ってないから飲んでも大丈夫だ。雌池の方は、なんなら泳いでもいいけど」と言っていた。

 天気はよかったが、積乱雲が湧き始めていたので、雨が降ることも考えられた。そこで、なるべく水はけのよさそうなところを選んでテントを張った。
 双子池はいずれもかなり増水していて、湖岸の道は水没しており、テント場までササをこいでいくところもあった。

 あとから到着した関西人と思しきパーティが少し賑やかだったが、こちらも疲れていたので、すぐ眠ることができた。
 夜中には、ヨタカの鳴く声が池に響いていた。

2日目

 朝は、ルリビタキのさえずりで始まった。
 天気はまぁまぁ。

 雄池で水を補給し、歩きにくい溶岩の間を急登する。
 天狗の露地というところで、ひと息つく。
 ここの登りで、背後からのご来光だった。

 平坦なところを少し行って、再びしばしの急登で、尾根にあがり、溶岩を縫っていくと、大岳の分岐だ。
 大岳からはガスのため、展望は今ひとつだった。

大岳の登りでご来光

大岳の石仏

 北横岳に登る途中、南八ヶ岳がずいぶん遠く望まれた。

 この日の北横岳の展望は、すばらしかった。
 木曽御嶽山から北アルプスまでが全部見えており、絶景と言えた。

 麦草峠周辺には老若たくさんの人々が歩いており、白駒池はたいへん混雑していることが予想されたので、予定通り、黒百合平に向かった。

北横岳下から雨池

五辻の笹原

 丸山への登りはずっと樹林帯で、ピークに立っても、見晴らしは効かない。
 高見石へはすぐだったが、ここはたいへんな賑わいだった。
 一般のハイカーだけでなく、林間学校の高校生か中学生が大勢で騒いでいたので、久しぶりに学校に来たような感じさえした。
 先ほどちょっと覗いた、白駒池の駐車場には観光バスを含め、たくさんの自動車がとまっていた。
 高見石は、展望もすばらしいから、白駒池を起点とした、格好のハイキングコースなのだろう。

高見石から白駒池

中山峠近くから両天狗岳

 中山に向かう道に入ると再び、北八ツらしい静かなトレイルとなる。
 中山の登りは意外と長く、少々疲れた。
 山頂手前に展望のよい台地があるので、ここでこの日最後の小休止。

 中山峠へ下れば、黒百合平はすぐだった。
 時間がまだ早かったとはいえ、テントはまだ1張しか張ってなくて、静かだった。
 この前にここへ来たのは、20年近く前の年末で、テント場ももちろん積雪たっぷりだったが、その時の方がまだ、賑やかだったと思う。

 クロユリやテガタチドリが咲き乱れているはずの草原に、花はあまり見られず、鹿よけの網が張られていた。
 網の向こうでは、シナノオトギリ・エゾシオガマ・ヨツバシオガマ・カラマツソウなどが少々咲いていただけだった。
 奥秩父の雁坂峠などもそうだが、標高2000メートル前後の草原お花畑は、鹿に食い荒らされて、ほとんど壊滅している。
 対策は、緊急を要すると思う。

 テント場はとても静かだっだだが、小屋の宿泊者の一部が、小屋の前で歌を歌いはじめた。
 すごく古い歌ばかりで、だいたい、1960年代に流行ったのが多かった。
 最初は10人近くで歌っていたのでうるさかったが、だんだん人が減っていき、やがて静かになったので助かった。

 食事をしていたら、ストライクアラート(雷探知機)がピーピーと鳴り始め、黒い雨雲が下がってきた。
 最後の一枚を焼き終わる寸前に、とうとう雨が降りだしたので、その一枚とスープは、テントの中で食べた。
 雨はすぐに土砂降りとなったが、すぐにやんでくれたので、なんの支障も起きなかった。

 雨がやんだら歌のおじさんたちがまた出てきたようだったので、ギョッとしたが、大きな声でしばらく、理科の話をしていただけで、すぐに小屋に入ってくれたので、ほっとした。
 黒百合平に流水や湧き水の水場はないが、黒百合ヒュッテで必要なだけ分けてくれる。
 この日と翌日分の水をもらいに行った後、本を読んでいたら、寝てしまった。

3日目

 3日目の朝は、ガスだった。
 それでも、いずれ晴れると考えて、予定通り行動開始。

 小屋前の涸れ沢を渡って、溶岩の斜面にとりつく。
 周囲が明るくなっても、ガスはなかなか晴れてこない。
 スリバチ池らしきところで少し平坦になる。昨日、雨が降っわけだが、スリバチ池に水はない。

 さらに急登が続く。
 背後のガスが晴れてき、乗鞍岳や穂高連峰が見えてくるが、いずれも山の上部には雲がかかっていて、全容は見えなかったものの、御嶽山や乗鞍岳は全容をあらわした。

東天狗の登りから御嶽山

東天狗から両神山

 中山峠からの尾根道を合わせると、急な道を少しで東天狗の山頂だった。
 ピークには濃いガスがかかっていて、着いた時の展望は皆無。
 風も吹いていたので、寒かった。

 速い速度で雲の塊が通過しており、展望はゼロになったり、100%になったりしているのだった。

 西天狗はさらに展望がよいので、ザックを置いて西天狗に向かう。
 鞍部には久々に見る、リンネソウが咲いていた。

リンネソウ

西天狗から仙丈・甲斐駒・北岳

 西天狗で改めて、山座同定をする。
 西側は、中央アルプス全山と、御嶽山・乗鞍岳が大きい。
 北アルプスは相変わらずで、穂高と槍の最上部と後立山は雲の中だ。

 北側は、遠くの雲海上に妙高・戸隠連峰が見えている。
 北西目の前は、浅間山連山だ。
 小野子三山や榛名山は、意外に近い。

 東側、御座山の肩には、両神山がこれまた、ずいぶん近く見える。
 奥秩父はほとんど全部見えているが、見慣れない角度のため、はっきりわかるのは、金峰山周辺と甲武信三山くらいだ。

 南アルプスは、仙丈ヶ岳・甲斐駒ヶ岳・北岳・鳳凰三山がずいぶんはっきりと見えていた。間ノ岳は見えない。
 時おりガスが行き過ぎるが、見飽きない展望だった。

 東天狗に戻り、次は根石小屋までとした。
 朝が早いので、体力は十分残っているが、この日は赤岳鉱泉までと決めていたので、あまり速すぎても意味がない。
 同行者は、コマクサは見たことがないと思うので、根石小屋のコマクサをゆっくり鑑賞してもらおうと思った。

コマクサ

夏空と夏雲(大きな写真)

 根石小屋に向かって下って行くと、バックホーが2台となんだかわからない重機が1台、置いてあるのが見えた。
 ここはテント場がない小屋なので、小屋の建て増しでもするのかと思った。

 小屋前のコマクサは、ほぼ満開状態で、みごとな咲きっぷりだった。
 あともう一週間遅れれば、これだけのコマクサを見ることはできなかっただろう。

 東に両神山・西に御嶽山と、修験の名山が左右に見える。

 箕冠山から夏沢峠にかけては、久々に樹林帯となる。
 夏沢峠でまた休憩。
 ここまで来ると、登山者がすこぶる多い。やはり、黒百合平で泊まったのは正解だった。

硫黄岳から蓼科山・両天狗岳

イワヒバリの横顔

 夏沢峠から硫黄岳へは、長い登りとなる。
 軽装の中高年ハイカーをどんどん抜いて、すぐに森林限界を越え、なんなく硫黄岳山頂標識のところへ到達。

 律儀に三角点まで登っていく人もいるが、山頂標識のあるケルン前で小休止。
 西風が強くて、たいへん寒かった。

 硫黄岳到着が9時13分だったので、このまま下ると10時半にはテント場に着いてしまう。
 稜線は涼しい(というかじっとしてると寒い)が、テント場は暑そうだ。
 休みながら同行者と相談し、横岳まで行って、地蔵尾根を下ってみようということに一決した。

チシマキギョウ

イブキジャコウソウ

 しばし下って、コマクサ群落を見ながら、横岳へぐんぐん登っていく。
 横岳三角点で一休み。
 ここは去年も来たところだ。
 さすがにここまでは、鹿も来ないと見えて、ミヤマダイコンソウ・チシマギキョウ・ヨツバシオガマなどの高山植物が咲き乱れていた。
 ウルップソウやチョウノスケソウは残念ながら、花がらになっていた。

 両神山の近くの岩峰までがはっきり見えてきた。
 今年の冬に、大ナゲシからこちらを眺めたが、あの岩峰群のどれかが大ナゲシなんだろう。

地蔵尾根分岐から横岳・蓼科山

地蔵尾根分岐から両神山群

 杣添尾根を分ける三叉峰から先は、横岳の核心部となる。
 岩場を避けながら、うまく道がついているが、鎖場や軽いクライミングも多少まじる。
 とはいえ、同行者たちは落ち着いて、岩場を軽快にこなしていく。
 重いメインザックを背負ってこれだけ軽々と歩けるのだから、たいしたものだ。

 地蔵尾根の分岐に着いたのは11時過ぎ。
 このメンバーなら、キレット小屋まで行っても、ちょうどいい時間になりそうなくらいだ。
 せっかくの稜線なので、ここで長めの小休止をとる。

 地蔵尾根の下りもあっという間で、思ったとおり、蒸し暑い行者小屋に着いた。
 赤岳鉱泉へは、もう少々の歩きとなる。
 少し登って、だらだらと長く下って赤岳鉱泉に着いたのは、12時20分と、ちょうどよい時間だった。

 受付に行ったら、入浴は2時からと言われたのは残念だったが、美濃戸まで3時間近い歩きも残っていることなので、あっさり諦めた。

 美濃戸口でバスに乗り遅れると困るので、13時半に赤岳鉱泉を出発して、どんどん下った。行者小屋に行く道と違って、こちらはすぐに林道になるので、林道歩きが飽きるほど長い。

 早足でも1時間以上かかってようやく、行者小屋コース入口の美濃戸。
 数年前の夏トレでここに来たとき、行者小屋方向にしばらく歩いてから、ここの小屋に忘れ物をしたのに気づいた生徒と一緒に、とりに戻って登り直したことがあった。

 美濃戸口に着いたのは、バスの出る約1時間前だった。
 バス停前の八ヶ岳山荘でゆっくり風呂に入る時間があって助かった。
 汗を流して身体の隅々まで伸ばし、冷たい飲み物を飲んだら、疲れがとれた。