馬不入山から岩舟駅への途中、車道に出るところに自転車をデポし、自動車で大中寺に向かう。
車道沿いには、剪定の済んだブドウ畑が連なっているが、今はオフシーズン。
キウイフルーツを売っている店が一軒だけあった。
扇状地から平野のへりにかけての田園地帯に水を供給しているらしい溜め池があちこちにあって、カモが浮かんでいた。
大中寺からは、アスファルト舗装された遊歩道。
山歩きの風情にはやや欠けるが、道ばたに植えられたスイセンのつぼみがふくらみ、舗装の切れ目に根を張るタチツボスミレが咲き始めていた。
大平山神社が近くなると、関東平野が一望でき、はるか彼方に筑波山が見えた。
大平山神社は参拝者や祈願依頼者でにぎわっていた。
軒を連ねる土産店街で「ちたけそば 700円」というのが目を引いたが、中をのぞくと満席だったので、先に向かった。
ここからようやく、普通の山道。
少し登ると、富士浅間神社。ここが、本日最初のピークだ。
展望はないが、そのぶん風もなく、暖かな日だまりだった。
尾根に出ると、冷たい風が足尾方面から吹いており、小枝についた雪のかけらが飛び散って、粉末状のかけらとなって流れていく。
アプローチのよい低山とあって、たくさんのハイカーとすれ違った。
電波塔の建つグミの木峠を過ぎると、晃石山の登り。
前方から、こちらを呼ばわる人がいた。
いったい何ごとかと思ったが、とりあえず返事をしてみた。
「もしもぅし!」
「何ですか!」
「もしもし」
「はぁい」
「聞こえますか!」
「聞こえますよ!」
そばまで行くと、その人は、コードレス電話でだれかと会話しているのだった。
すれ違うとき、相手の顔を見られなかった。
立派な三角点があるわりに、祠のある晃石山の山頂からの展望は、今ひとつだった。
山頂下の晃石神社は大きな神社で、藤原秀郷にまつわる伝説を記した看板や、ベンチなども置かれていた。
低山とはいえ、このあたりの水源として、深い崇敬を受けてきた、歴史のある山だということがよくわかる。
水源としての歴史には先が見えつつあるが、ゴルフ場と採石場に侵された阿蘇前衛の中で、この山が、人々が憩う里山として相変わらず貴い役割を果たしていることは間違いないと思う。
手すりのついたところを下ると桜峠。
幹を三本立てた山桜の大木があった。
清水寺への道はしっかりしているが、岩舟町側の道は廃道寸前のようだった。
馬不入山は、この日歩いた中で一番見晴らしがよく、関東平野の広さが実感できた。
さっき登ったばかりの晃石山や唐沢山、絹ヶ岳などが近くに見えた。
絹ヶ岳の山頂は、まだ残っているようだった。
自転車デポ地点まではすぐだった。