自動車を日瓢鉱山前にデポし、流星号(MTB)に乗りかえて舗装道路のダウンヒル。スピードが出すぎてバランスをくずしそうだ。
尾鑿神社という鳥居のあるところまできて、畑でマルチングの作業をしていた人に、石裂山の登り口を尋ねると、一キロほど上だと言われてしまった。
調子にのって登山口を下りすぎたため、坂道をこぎ登る。これがこの日最初のロスタイム。
自転車を教えられた賀蘇山神社前にとめ、まずは神社に拝礼。
裏手にあるスギの切り株のでかさに驚嘆した。
神社のわきを通って小沢に沿う林道にはいる。
かなり傾斜のある沢なので、細いながらも、快い音をたてて流れていた。
道ばたには、エイザンスミレ、タチツボスミレ、ヨゴレネコノメ、ニリンソウ、ホタルカズラ、ハルトラノオなどが咲いていて、目を楽しませてくれた。
サラシナショウマやナンテンハギ、フキノトウなども出ていたので、おかずに少し摘んでいく。
かなり登ったところでようやく登山道の入口。賀蘇山神社の中宮あとだという説明板とあずまやが建っていた。ここで上着を脱ぎ、水を補給して、スギ林の中の登りにかかる。
ひとしきり登ると、クサリとハシゴが連続したところ。
ここを登るのはえらく難儀だが、このあたり、花はなかなかすばらしく、岩場一面に咲くイワウチワ、みごとに開花したアカヤシオ、斜面いっぱいのヒカゲツツジ群落など、すばらしいところだ。
石裂山の岩壁が眼前に屹立するようになると、背後はるかに横根山がかすんでいる。ずいぶん遠い。
めざす山があまりにも遠く、意志がくじけそうになる。だから、横根山はなるべく見ないで登った。
いつのまにか、小鳥のさえずりの季節となり、ヒガラ、ミソサザイ、ルリビタキ、シジュウカラなどの声が聞こえた。
カタクリの花をそこここに見ると、ひと登りで御沢峠。そこから石裂山はすぐだった。
先客が引きあげたあとのふとした静かなひととき。ここで腰をおろして急登の疲れをいやす。女峰山、大真名子、男体山、奥白根山、横根山方面が望まれた。
よく晴れているが薄くもやがかかっていた。
月山のピークの方が展望はよいが、敷物を広げた家族づれなどがたくさんいて、腰をおろす場所もないので、通過。小川沢峠方面へ下る。
植林の中を少し下ると、右から林道が上がってき、皆伐されヒノキ苗が植えられたところ。笹目倉山がずいぶん近い。
林道が切れて少しで、小川沢キャンプ場への下山路。この道ははっきりしているが、尾根道はここまで。ここから先に道はなし。
尾根をはずさぬように歩いていたつもりだが、やけに急な尾根だと思ったときには、小川沢寄りの支稜にはいりこんでいた。
登り返すより下った方が楽なので、そのまま谷まで下り、小川沢林道の終点から沢をつめて峠に登った。地形図に出ている破線路はあとかたもなく、ひどいパラヤブになっていた。
この林道あとで食べごろのタラノメを採取。
「受領は倒るるところに土をもつかめ」という『今昔物語』の説話を思い出した。
このロスに懲りて、ここからは慎重に行った。
登山道というほどの道はないが、細いがしっかりした踏みあとがある。
と思っていたら、右に横根山林道が近づいたところで、またも左側の支稜に迷い込んでいた。
ここは、めざすルートに道がなく、西に向かうはっきりした仕事道がついてるので、まちがえやすいところだ。これでこの日三度目のロス。
もとのところまで戻って正規のルートを少し行くと、林道の越える峠に着いた。
ここから尾根へのとりつきは、モミジイチゴが下を向いて群生した最悪のヤブをずり登らねばならない。けものみちより細い、かすかな踏みあとが断続するのだが、間伐の際の遺物が散乱しているため、歩きにくいことこの上ない。
かなり急なピークを三つ登ると、一○七○メートル三等三角点の大滝山に着いた。南側が皆伐されているので、安蘇前衛がよく見える。ここから見る尾出山はえらくとがった山だ。横根山を正面に見ながら大休止。
大滝山からは、急な登り下りをくり返しながら左に折れ、前日光林道の峠へ。どの鞍部にもカタクリの群落が多い。このあたりにはまったく踏みあとなし。
峠で2時過ぎ。なんとか横根山に届きそうな時間でほっとする。
案の定、ここからも道はなし。しかし、人かけものが通っているらしい形跡がかすかにある。これを忠実にたどるとはずすとでは、ずいぶん疲労がちがってくる。
横根山らしからぬ、やせ尾根となり、前方に岩が切り立っているところは、左から巻いて割れ目からクライミング。
高度が上がると植林が消えて、自然林。
地形図には記載されていない登り下りが何ヶ所かあって気落ちするが、傾斜がきつくなっても、ひたすらがまんの登り。
ようやく傾斜がゆるんで、カラマツ林とダケカンバ、シラカンバの気持ちのよいところ。しかし、ヤブは濃い。
尾根が南に曲がると、少し下って横根山直下。
ジャングルのようなズミのヤブを突破すると、整備された登山道に飛び出した。
道ばたには時おり残雪。山頂はすぐだが、ピッチはあがらない。「関東ふれあいの道」規格の階段道をのろのろ歩いてようやく、北側に展望の広がる横根山。
ここにくるのは一年ぶりだが、中禅寺湖から歩いた前回同様、くたくたに疲れた。
それにしても、遠景の日光、武尊、中景の夕日岳からハガタテ、前景の前日光牧場と、ここからの展望は一級品だ。
晴れていてよかった。
ひと息入れて、井戸湿原に向かった。
なつかしい湿原荘の前で4時。この時間にまだ陽が高いのがうれしい。
このあたり、道のわきの整備が進んでいるのはいいが、アオキなんぞを植えているのには困ったものだ。アオキは、標高せいぜい二百メートル以下の里山の木。ここに植えるならツツジ類かズミのたぐいであるべきだ。
木道を通って、コバイケイソウやミズバショウの芽生えがはじまった湿原を横断。
だれもいない湿原で、ポクポクという自分の足音がムード満点。湿原荘の建つ自然林の斜面に夕陽があたって、木々の幹が輝いている。
至福の瞬間だ。
さて、そろそろ先が気になる時間となったので、湿原を半周して、五段の滝から日瓢鉱山への下山路を下る。
ここにも地形図通りの道はなく、横根山東面をトラバースして、三叉路から一気に下っていく。三叉路には「蛇塚ヒュッテまで十分」などという道標が立っていた。
ヒノキ林を過ぎ、沢に着くとしばらくで、なんの道標もない鉱山道路に飛び出す。鉱山としては通ってほしくない道だろうから、このルートもいずれなくなってしまうのだろうか。
自動車をデポしたところまではすぐだった。