禁断の尾瀬
- 至仏山・燧ヶ岳 -

  【年月日】 2003年7月23〜24日
  【同行者】 多数
  【タイム】 7/23 鳩待峠(7:45)−至仏山(10:45-11:00)−標高1880m地点(12:10-12:40)
           山の鼻(14:30-14:40)−見晴(16:30)
        7/24 見晴(7:15)−燧ヶ岳(9:30-9:45)−長蔵小屋前(12:10-13:00)−大清水(14:30)
  【地形図】 至仏山、尾瀬ヶ原、燧ヶ岳、三平峠

ニッコウキスゲ群落と拠水林

背景は燧ヶ岳
 先日職場で尾瀬に出張してほしいと言われたとき、即座によろしくお願いしますと答えていた。

 山日記を繰ってみると、最後に尾瀬に行ったのは1988年とある。
 御池から燧へ登り、長英新道を尾瀬沼へ下って、沼山峠からバスで御池に戻るというコースだった。

 数ある山の風景の中で、尾瀬ほどすてきなところはないと思う。

 しかし、現実の尾瀬はオーバーユースにあえいでいる。
 多くの人に尾瀬の景観を目にしてほしいので、おれはまぁ遠慮しようと思ったのが、尾瀬に行かなくなった理由だった。
 その後ずっとご無沙汰していたが、仕事とあっては、おれも勤め人である以上、行かないわけにはいかないではないか。

 鳩待峠を登り始めるときには寒かったが、よどんだガスに包まれた樹林帯を歩いていると、すぐに暑くなった。

 「寒いよう」
 「暑いよう」
 「これじゃまるで沼だ」(登山道のぬかるみのこと)
 「帰りたいよう」
 最初はえらくにぎやかに、大集団で歩いていたが、同行者たちの歩くスピードがえらく速いので、おれは、あっという間に置いてきぼりになった。

 ホトトギス、ウグイス、ルリビタキのさえずりが聞こえ、あたりはオオシラビソの樹林帯。
 ところどころにナナカマド、オガラバナが混じっていて、それぞれ花を咲かせていた。

 マイヅルソウやユキザサは、登山口あたりでは終わっていたが、高度をあげるにしたがって、盛りの花が見られるようになった。
 ズダヤクシュやヤマブキショウマは、ちょうど盛りを迎えたところ。

 オヤマ沢田代に出ても、周囲は乳白色のガスで、展望なし。
 しかし、湿性お花畑は、さすがにすばらしい。
 ハクサンチドリ、ダイモンジソウ、ツマトリソウ、ゴゼンタチバナ、ミヤマキンポウゲ、アカモノ、ミツバノバイカオウレン、イワカガミ、ハクサンシャクナゲ、モミジカラマツ、ネバリノギラン、イワイチョウ、タテヤマリンドウ、オゼソウ、ヨツバシオガマなど。

 ネマガリタケの密叢の中にオオシラビソやダケカンバが点在するようになると、岩が多くなり、歩きづらくなる。

 尾根の上は、泥のついた岩の道。
 周囲はハイマツ、ミヤマホツツジ、イワシモツケ、クロベなどの矮性灌木。
 ジョウシュウアズマギク、ウサギギク、ミネウスユキソウ、ミヤマシオガマ、キバナノコマノツメ、ムラサキタカネアオヤギソウ、イブキジャコウソウ、タカネナデシコなどが岩のすき間に咲いていたが、西から吹きつける冷たい風に、雨粒が混じりだした。

 遅れ始めた同行者たちとの道行きも、まぁまぁ面白い。
 「来るんじゃなかった」
 「落っこったら死んじゃうよ」
 「人が登るから自然が壊れるんだよ」(尾瀬に関してはこれは正しい)
 「むかつく尾瀬 遠い空〜」

 そんなお相手をしながら、どうにか至仏山の頂上。
 天気が悪いのに、登山者の数がすごい。
 お昼にはまだ間があるので、早々に山の鼻に向かう。

 高天ヶ原の湿性お花畑は、相変わらずすばらしかった。  オヤマ沢田代で見た花々に加えて、ミヤマコゴメグサ、ギボウシ、ニッコウキスゲも咲いていた。
 以前見た花で、この日見られなかったのは、クモイイカリソウくらいか。

 途中のベンチで大休止し、いよいよ難行苦行の至仏の下り。
 同行者がまた、文句を言いそうだったが、15年前とちがって、木の階段が随所に設けられており、格段に歩きやすくなっていた。
 とはいえ、岩と泥の単調な道も長く、なかなかたいへんだった。

 ここの森林限界の標高は、約1650メートル。
 オオシラビソにクロベの大木が混在する重厚な森だ。
 ガスの切れ目から、山の鼻の湿原が間近に見えてくると、ほっとした。

 湿原に出ると、キンコウカ、サワラン、トキソウ、ワタスゲ、ニッコウキスゲなどが咲き乱れていて、至福の思い。
 雨が強くなったが、そのぶん、登山者が少なくなるので、傘などさしながら、むしろのんびり歩けたし、写真も撮れた。

 広いところでは、上記以外にカキツバタ、ヒツジグサ、オゼヌマアザミなどがさかんに咲いており、拠水林付近には、シモツケソウ、オニシモツケ、オオマルバノホロシ、コオニユリが咲いていた。
 クガイソウは、咲き始めたばかり。
 ヤマドリゼンマイの群落の中に、オニノヤガラも、ひとつ咲いていた。

 雨が降っていたせいか、この日は拠水林のシラカンバの幹が、とても美しく見えた。
 いつか時間のあるときに、じっくり写真に撮ってみたい。

 泊まり場である見晴の小屋群が近づくと、ミズチドリ、コバノトンボソウが多くなる。
 小屋では、「三条の滝を見てきましたよ」と、先行していた連中が、迎えてくれた。

 翌日は、健脚組といっしょに、燧ヶ岳に向かった。
 見晴周辺は、ブナ・トチの原生林だが、燧への分岐あたりからはオオシラビソの森。
 明け方まで雨が降っていたため、登山道は沢と化していた。

 次第に傾斜が増していくが、景観に変化はなく、花もオオバミゾホオズキくらいしか咲いていない。
 この日もすぐに置いてきぼりになったが、メボソムシクイ、ルリビタキ、コマドリのさえずりを聞きながら、自分としてはいいペースで登っていった。

 森林限界を超えると、ハイマツの海の中に、ハクサンシャクナゲが点々と咲いており、尾瀬ヶ原の展望が広がったが、至仏山はガスで見えなかった。
 柴安ーでようやく、健脚の同行者たちに追いついた。
 遅れたとはいえ、見晴から約2時間強だから、がんばった方だ。

 じっとしていると寒いくらいの風が吹いており、ガスが切れると雪渓をまとった近くの山が見え隠れする。
 この日も、早々に沼に向かった。

 鞍部に下って、ミヤマキンバイを見て、俎ーへ。
 ここでも長居をせずに、長英新道へ。
大江川湿原
 キヌガサソウ、マルバダケブキ、サンカヨウ、ノウゴウイチゴなどを見ながらミノブチ岳に下ると、尾瀬沼が見える。
 鬼怒沼あたりは見えるが奥白根は雲の中だった。

 ここからは、長くて単調な下りが続く。
 傾斜がゆるむと、泥の道。
 さすがに元気な健脚組も、ことばが少なくなる。
 浅湖湿原の木道に着いたときには、やれやれだった。

 それでも、大江川湿原のニッコウキスゲは、ちょうど盛りで、若者たちからも感嘆の声があがる。
 長蔵小屋の前には、お昼には着けた。

 小屋の前には、コオニユリに混じって、ヒメサユリが咲いていたが、これは自生なんだろうか。
 尾瀬のほかのところでは見たことがない。

 小屋前で大休止し、三平峠への登りにかかると、なんだか胸がいっぱいになった。
 駆けるように下っていく健脚の同行者には、ついていくのがやっとだったが、おかげさまで大清水には2時半に着くことができた。