以前から行ってみたかった野手上山を、ようやく歩くことができた。
前日は小雨模様だったので、周囲のようすもよくわからなかったが、気持ちよく晴れ上がったこの日は、宿から風兼ダム登山口のドライブも、気分よかった。
阿武隈は、緩やかな低山がどこまでもうねうねと続いており、南に面した山ふところには、数件の民家が建っている。
裏山はどこも、ちょうど葉を落としたばかりのきれいな雑木林だ。
庭先の柿が美しく色づき、たわわにぶら下がっているようすも、典型的な日本の農村風景らしくて、心が安まる。
刈り取りの終わった田んぼでは、束ねられた稲わらが立てかけてあった。
あのわらはこのあと、どうするのだろうか。
この朝はずいぶん冷え込んだので、強い霜が降りていた。
登山道にも、この冬初めて見る、立派な霜柱が立っていた。
歩き始めてしばらくは、カラマツの林。
黄色く枯れたカラマツの葉がしんしんと音を立てながら、降り注ぐ。
これは、ちょうど雪の降る音と同じだと気がついた。
モリノカレバタケに似た白い小さなきのこやキヌメリガサが出ていたが、すでに悪くなってしまっていた。
急な道をひと登りで、小ピーク。
金華山と彫られた古い石碑があるので、ここは金華山と呼ぶのが正しいように思うのだが、その石碑を隠すように、黄金山大神と彫られた真新しい石碑が建てられていた。
みると、建立されたのは平成15年10月。ということは、つい先月である。
供養の宴で使ったものか、紙コップがあたりに散らばっていた。
ここからは、たいへん美しい雑木の斜面を登っていく。
コナラが多いが、カエデ類やブナの若木も混じる。
登りきって少し北に行ったところが山頂だった。
先客は、山頂の祠にお参りに来たというご老人のみ。
この人から、野手上山の天狗の話や一帯の山に出るきのこの話など、とてもためになる話をうかがうことができた。
はるか東には、山波ごしに太平洋が望まれたので、Uさんが喜んだ。
帰りは、ご老人が下っていったと同じルートを下ってみた。
これは山頂からまっすぐ来たに下る最短路だが、傾斜がきつい。
あっという間に下り終え、あとはもとの登山口まで、車道を歩いた。
車道とはいえ、自動車は一台も来なかったので、あたりの景色を観賞しながら、のんびり歩けた。
ノイバラの赤い実や田んぼのあぜ道に咲くワレモコウ、かれたカラハナソウの花穂などが、とても懐かしい。
朝には寒々としていた登山口に戻ると、青い空を背景に、ドーム型の野手上山が可愛らしかった。